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グラフィックデザイン、独学のススメ
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デザインの勉強は、基本「独学」

美大の講師が「独学」を薦めるとは、とうとう血迷ったな、と思われるかもしれません。しかし「独学」を薦めるからといって、もちろん僕は「通学」(美大や専門学校での学び)を否定している訳ではありません。

人生100年時代、キャリアは50〜60年のスパンで考えなければいけなくなるでしょう。変化の激しいデザイン業界で、デザイナーとして常に「現役」でいるためには、必死に学び続けなければいけません。しかし、学校でデザインを学ぶことができるのは、多くても5〜6年ほど。そうなると、基本は「独学」ということになります。

ただ「独学」が基本だとしても、「デザイナーになるために、美大にいく必要はない」といった主張に対しては、正直なところ「少し偏っているのではないかな」と思っています。(僕は、専門学校で学んだことがないので、この記事では美大での学びを中心にお話しさせてください。)


デザイナーに学位は必要か?

確かに、デザイナーになるためには、医者や弁護士のような国家資格は必要ありません。要は腕さえあれば、仕事になります。(調理師免許や、第二種運転免許など)免許が必要な他の職業に比べて、デザインの参入障壁はずっと低いでしょう。

もちろん、大手の代理店などの就職には美大の「学位」が求められることがあります。悔しいことに、学位がないと書類選考で落とされてしまうケースもあるでしょう。しかし、もう少し広い目で見れば、デザイナーとして働く機会はたくさんありますし、「新卒至上主義」や「学歴偏重主義」はいずれ淘汰されてゆきます。そもそも、そんなことをしていたら企業もデザイナーも生き残れません。

では、デザイナーになるために「学位」が必要ないということは、イコール「美大にいく必要はない」ということでしょうか?その見方も、少し偏っているように思います。

そもそも「学位」は「免許」ではありません。デザイン業界に入るための「チケット」でもありません。美大は、美術やデザインを学ぶための場です。そこでしか得難い「学び」があるからこそ、多くの人は(日本では理不尽なほど難しい)入試に挑戦し、決して安くない学費を払うのです。


「独学」か「通学」(美大)か

はじめに述べたように、デザインの勉強は基本「独学」です。しかし「通学」(美大)で得られる「学び」も決して少なくありません。そもそも「独学」と「通学」は二者択一の選択ではないように思います。二項対立は議論をわかりやすくするかもしれませんが、逆に思考停止を招きます。本質的な問題は「学び」の質をいかに向上できるか、ということです。

以下、美大で得られる「学び」や、そのメリットを4つ挙げてみたいと思います。美大進学を薦めるわけではありませんが、自分の「独学」をいかにレベルアップできるかという視点で、参考にしていただければ幸いです。美大で得られるアドバンテージを自分のデザインの「学び」に取り入れることことで、「独学力」を伸ばす役にたてていただければ幸いです。

(何らかの理由で美大進学がオプションにない人にとっても、役に立てれば幸いです。ちなみに僕自身も「お金と時間」という理由で、修士課程への進学はオプションにありません。)


(1)「独学」のカリキュラム

知識や技術は、基本的に積み上がってゆくものです。高いビルを立てるには、それだけ深くしっかりした土台が必要です。

美大のカリキュラムは、デザインに必要な思考力と造形力を段階的に学ぶことができるように設計されています。例えば基礎課程では、色彩や造形、視覚的なバランス感覚などの基礎を学び、専門課程では書体やレイアウトの組み方、メディアの使い方といった順番でより複雑な内容を学んでゆきます。

このようにしっかり設計されたカリキュラムに従うことで、自分のステージが上がってゆくことを実感できますし、壁にぶつかった時は前のステージを振り返ることで、成長のきっかけを掴むことができます。構造がしっかりしているので、自覚的に、そして効率的に学ぶことができるわけです。

「独学」の大変さは、こうした体系的で段階的な学びの構造を設計しづらいところでしょう。手に入る「参考書」は、基本的に(よく売れる)「入門書」が多く、色彩やタイポグラフィの入門書を複数読んでみても、知識や技術が組み上がってゆく感覚を味わうことは難しいでしょう。

「独学」の参考として、プラットのコミュニケーションデザインのカリキュラムをシェアします。1年生は基礎課程で、デッサンや色彩構成など、造形の基礎を勉強します。そのあと、2年生から専門課程が始まります。2年生〜3年生前期まで(三学期程度)の内容を段階的に勉強できれば、かなり力がつくはずです。


 

もう少し噛み砕いて段階を提案すると、次のような順番で学んでゆくと、デザイン力が積み上がってゆく感覚を味わえるはずです。

  1. 創造的プロセスと思考の型

  2. 視覚的伝達の基礎:記号(言語)論の基礎

  3. デザイン制作のツールや進め方(ソフトウェアの使い方など)

  4. タイポグラフィ基礎(書体選びからレイアウトまで)

  5. 動的な表現(アニメーションや画像編集)

  6. メディアの使い方(クロスプラットフォーム・デザイン)

  7. 立体的なデザイン(パッケージ・環境・イベントデザインなど)

  8. インタラクションデザイン、スペキュラティブデザインなど。

加えて(英語で恐縮ですが)、以下のチャートは、僕が教えている2年生前期の「リサーチ・分析・プロセス」(創造的プロセスと思考を教えるコース)で扱う内容とその構造となります。さらに、15週間のコースの中で扱う3つ課題の概要と、そこで学ぶプロセスを分解したものも参考までに加えておきます。

美大のクラスと聞くと、もっと「感覚的」で「自由」な雰囲気のクラスをイメージされるかもしれませんが、基礎を据える段階では、普遍的な「型」を徹底的に学びます。「独学」のベースとして、この創造的なプロセスの型を抑えておくことで、その後の「独学」に構造を加え、より体系的に学びを進めてゆくことができるでしょう。

 
 

(2)「独学」の評価

成長とは、目的地と自分の現在地とのギャップを埋める行程のことです。実際、自分の現在地がわからなければ、目標までの道筋を見極めることはできないでしょう。

学校では、中間テストや期末テスト、成績表という形で自分の現在地を確認することができますが、美大ではどうでしょうか。以下のチャートは、僕が教えているコース(「リサーチ・分析・プロセス」)の評価基準となります。3つの課題が9項目で評価されます。美大での評価は、もっと「感覚的」に行われているイメージがあるかもしれませんが、実は全くその逆で、主観的な作品を評価するために、非常に分析的で客観的な評価基準が使われています。かなりドライです。

作品の出来栄えも評価されますが、むしろその制作プロセスの中で、コースで学んだ方法論や手法が十分に応用されたかどうかが問われます。この評価基準は、シラバスの中に明記されており、コースの初日にも、コースの説明と合わせて、評価基準がはっきりと説明されます。

 
 

「独学」でデザインを学ぶ場合、評価はどうしても「自己評価」になりがちです。しかし、自分の本当のレベルを客観的に見極めるのは非常に難しいものです。必要以上に自分を卑下してしまうこともあれば、根拠のない自信で成長の機会が閉ざされてしまうこともあるでしょう。

デザイナーとしてすでに働いている場合は、仕事の評価が自己評価の基準になることでしょう。デザイナーとして仕事をし、暮らしていけるということは素晴らしい成果ですが、それがイコール「デザイン力」の評価かというと、少し違うようなきもします。

「独学」でデザインを勉強する場合、自分が尊敬する先輩デザイナーに作品を講評してもらうことができるかもしれません。後輩から相談されて嫌な気持ちのする先輩はあまりいません。また、転職活動での面接を一つの「評価」の機会と捉えることもできるかもしれません。さらに、積極的に一般参加可能な講評会に参加することで、客観的な評価を得ることもできるかもしれません。

(3)「独学」と規律

問題は、続けられるか、です。成功する人は、成功するまで続けられた人です。逆に多くの人が挫折するのは、努力が続かないことが原因でしょう。(自分にも心当たりがたくさんあります。)

美大にはもともとコミットメントの高い学生が集まってきますが、学校というシステム自体の中にも、「学び」を継続させるための「仕掛け」がいくつも仕込まれています。上記の「カリキュラム」や「評価」に加えて、少なくとも以下のような外的要素が、学びの継続を強く促します。

  1. 課題の締め切り(毎週)

  2. 講評会・展覧会(隔週・学期末)

  3. 仲間からの励ましやプレッシャー

  4. インストラクター

  5. 学費を払っているという自覚

  6. 健全な競争

  7. 賞や就職などの目標

ちなみに、インストラクターの役割は、上記の要素を上手にバランスすることで学生たちの精神的なバランスを積極的な状態に保ちつつ、動機を強め、自発的な学びを誘発することです。

「独学」を成功させる鍵は、いかに「学び」を継続するための外的動機付けを持てるかどうかでしょう。例えば積極的に周りを巻き込んで「勉強会」を企画したり、定期的にイベントやセミナーに参加することで、継続的な学びを計画することができるかもしれません。

基本的な技術を身に付けたら、一つ上の仕事に挑戦してみることも良い動機付けとなるでしょう。フリーランスの仕事にチャレンジするのも良いと思います。「収入を得る」ことが「責任感」という「外的な動機付け」となります。要は、反強制的に自分を「学ばざるを得ない」状況に追い込んでゆくという手法です。

(4)「独学」と出会い

グーグルが登場しどんな情報も簡単に手に入るようになってから、学びのスタイルは「知っている人が知らない人に知識を分け与える」スタイルから、「双方向に学び合う」スタイルへと変わっています。不確実性と向き合わなければいけない現在、特にデザイン業界において、この傾向は顕著です。

美大には、全国から腕に自信のある学生が集まってきます。地元では「アーティスト」と呼ばれて崇められていた学生が、美大にくると「大勢の中の一人」である現実を突きつけられ落ち込む、ということは少なくありません。しかし、こうした「気付き」は健全な自己認識や謙遜さを養い、常に学ぶ姿勢を持つ上で必要不可欠です。実際学生たちは、教師よりも、互いの作品から多くを学びます。

さらに、美大ではデザインに関する研究が行われていたり、デザイン業界で活躍する教師たちが教えていることもあり、最先端のデザインに触れる機会が日常的にあります。(新進気鋭のデザイン事務所でインターンシップをする学生から、逆に教師が生徒からデザインのトレンドを学ぶということも少なくありまません!)デザインのコンペや産学共同プロジェクトへの参加の機会、イベントへの参加、インターンシップや就職の機会など、黙っていても情報が入ってきます。このように、デザインの熱量が高い環境は、成長を大いに促します。

「独学」の場合も、自発的に行動を起こすことで、多くの機会にアクセスすることが可能です。オンラインであれば日本だけでなく、世界中のイベントや講座に参加することが可能です。デザインを「独学」で学ぶ人が全国で増えている中、オンライン上で横のつながりを作り、切磋琢磨できる環境を創造することは十分可能でしょう。

自分の持っている知識や技術を人に「教える」という方法は、素晴らしい「学び」の機会となります。僕自身、大学で教えることにした最大の動機は、新しい「学び」の機会を得ることでした。大学やセミナーの講師を目指さずとも、勉強会を開催し、互いに教え合うことは、双方向の学びの機会となるでしょう。

「独学力」をレベルアップするために

「カリキュラム」「評価」「規律(外的動機付け)」そして「仲間と機会」というポイントで、いかに「通学」(美大での学び)のアドバンテージを「独学」に組み込むことができるか考えてみました。

「通学」には、お金を払うだけの価値が確かにあります。特に、キャリアのスタート時点で、美大や専門学校でデザインの基礎を体系的にしっかり学ぶことには、大きなアドバンテージがあることは否定できません。美大にいくことで開かれる機会はたくさんありますし、そこで学ぶ基礎はその後のデザイナーとしての成長を加速させるものとなるでしょう。

しかし「通学」がオプションにないとしても、そのアドバンテージを取り入れることは十分可能です。今日ご紹介した内容を簡単にまとめると:

  1. 独学の「カリキュラム」を設計する。

  2. 先輩や第三者に作品を見てもらう。講評会に参加する。

  3. 一つ上の仕事に挑戦し、反強制的に「学ぶ」機会を作る。

  4. 積極的にデザインコミュニティと繋がる。

問題は「独学」か「通学」の二択ではなく、両者の良いところを掛け合わせてた本質的な「学び」をずっと継続してゆくことです。美大を出てデザイナーになった人も、学校に通わずにデザイナーになった人も、コツコツ勉強を続けることで、デザインのレベルを確実に上げてゆくことができると考えています。

以上、みなさんがデザインを学ぶ上で、上記の情報が役にたつことを願っています!最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

 
Daisuke Endo1 Comment