Design & Education / Creating Logos and Visual Identities

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ロゴの値段

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1万円のロゴもあれば、1000万円のロゴもあります。ロゴデザインの「相場」について解説するのは、コンテンツ・マーケティングのサイトにお任せするとして、ここでは自分がロゴをデザインする時の座組みやプロセス、そして見積もりの目安をご説明できればと思います。(具体的な数字は、記事の最後に。)

ロゴデザイン・プロジェクトの規模と座組み

まず前提として。僕はフリーのデザイナーとして、基本的に一人でプロジェクトに参加させていただくことが多いです。稀にプロジェクトの規模が大きい場合は、リサーチなどのためにアシスタントをつけることがあります。

僕がお手伝いすることの多い、企業の新規事業の立ち上げに伴うロゴデザインの場合、クライアント側には、プロジェクト全体をコーディネートするプロジェクト・マネージャー、クリエイティブ・ディレクター、そして最終決定権のあるブランド・マネージャー、企業のトップ、さらにスタッフの方が数名の、5〜8人ほどのチームでプロジェクトが進みます。

プロジェクトの規模に比例して関係者が増えます。そして、それに比例してプロジェクトの難易度も上がり、それだけ集中力や分析力が求められるようになります。その分、ミーティングや調整が増えるので、制作時間が長くなる傾向があります。逆に、ブランドのオーナーと一対一で行う小規模なプロジェクトの場合、ヒアリングや意思決定のスピードが上がり、制作時間も短縮できます。

以下のデザインプロセスと見積もりの目安は、基本的に、中規模の新規事業立ち上げに伴うロゴデザインプロジェクトを想定しています。

ロゴデザインのプロセス


(1)ブリーフィング(約5時間)

プロジェクトのキックオフの段階で、まずクライアントからブリーフィングを頂きます。(この時点で、ブランドのネーミングはフィックスされていることが望ましいです。)ブリーフィングの内容は基本的に以下の通りです。

  1. ブランド・エッセンス

    • ミッション(&ビジョン)

    • ポジショニング

    • ターゲット・オーディエンス

    • バリューズ(価値観)

    • ストーリーや、ビジネスモデルの説明など

  2. デリバブル

    • シンボルマーク

    • ロゴタイプ

    • カラー・パレット

    • タイポグラフィ

    • 名刺

    • ステイショナリー

    • ガイドライン

  3. スケジュール(制作期間)

  4. その他

    • ロゴが使用される特別な条件など



ブランド・エッセンスは、ロゴデザインのプロセスを通して有機的に変化してゆくものですが、ブリーフィングの段階である程度の合意形成がなされていることが望ましいでしょう。ブランド・エッセンスが固まっていない場合は、主要メンバーのインタビューを行い、エッセンスを固めるところからお手伝いするケースもあります。その場合、最初のプレゼンでは、まずブランドのエッセンスを検討し、方向性を定めます。

いずれにしても、キックオフ・ミーティングでは、参加メンバーがそれぞれ自由にサービスやプロダクトに対する思いを語っていただけるようにします。チームの前で自分の思いを語ることは、ブランドに対するコミットメントを形成するワークショップともなるでしょう。

(2)デザイン(約30時間)

上記のブリーフィングに基づいて、まずデザインのコンセプトを考えます。ブランドのミッションの背後にある思いや、ブランドをドライブする願い(WHY)を抽出してゆきます。そうしたブランドの本質は、ブランドが常に立ち戻ることのできる大義、目指すべき地平線、さらにブランドが選ばれる理由となってゆきます。

次に、抽出されたブランドの思いや願いを、ある場合には抽象的に、またある場合には比喩を使って可視化し、複数の思いを一つのロゴ(シンボルマークやロゴタイプ)へと編み上げて行きます。何百ものスケッチが生まれますが、最後まで残るのはほんの数個だけです。

ブランド・エッセンス、ブランドのデザインコンセプト、さらにスケッチを精錬したものを、いくつかの展開例と合わせて、プレゼンテーションにまとめます。基本的にロゴのデザイン案は3〜5つ、プレゼンの規模は60〜80ページほどになります。第一回目のプレゼンテーションまでに約3週間ほどかかります。

 
 

(3)プレゼンテーションと改善(約60〜90時間)

自分たちの思いが視覚化されたロゴデザインのプレゼンテーションを見ることで、ブランドに対するより深い気付きが得られ、ブランドに対する理解や思いが深まってゆきます。ロゴについて語り、自分たちのより深い思いを表現することで、ブランドに対するコミットメントが一層深まり、チームの結束が強くなってゆきます。(ロゴが「トーキングストーン」の役割を果たします。)

多くの場合、最初のプレゼンでロゴが決まることはありません。アップデートされたブランド・エッセンスに基づいて、もう一度スケッチから始め、新たにプレゼンを準備します。大抵の場合、この作業があと2〜3回繰り返され、やっと納得の行くロゴデザインが完成します。

ロゴを選ぶ際に基準となるのは、第一にそこにブランドの本質が表現されているかどうかです。加えて、以下の一見相対するように見える価値(トレードオフ)をいかに両立できるかが、優れたロゴデザインの基準となるでしょう。

  1. 「オリジナリティ」対「シンプリシティー」:他と異なったユニークなものを作ろうとすると形が複雑になりがちですが、そのぶん視認性が弱まり、使い勝手も悪くなります。目指すべきは、極限までシンプルでありながら、オリジナルなデザインです。

  2. 「トレンド」対「普遍性」:時代性を反映したものが共感を得ますが、20年後も機能するだけの普遍性があるかどうかがロゴの価値です。目指すべきは、トレンドではなく、常にレレバントであること。

  3. 「見たことがありそう」だけど「見たことがない」:人は自分が知っている物に親近感や安心感を持ち、見たことがないものに驚きを感じます。その両方があると深く印象に残ります。


加えて、二重の意味が隠されていたり、思わず二度見してしまう仕掛けがあったり、ユーモアのセンスがあるロゴは、心に残るロゴとなるでしょう。もちろん、様々なメディアで、様々なサイズで使用できるだけの視認性を備えていることも、重要なチェックポイントとなります。もちろん、どんなに優れたロゴデザイナーでも、この全てをクリアするのは、至難の技です。

ロゴの開発プロセスでは、できる限り参加者全ての意見に耳を傾るよう努めます。しかし、良いデザインは多数決で生まれるものではありません。最終的には、ブランドのオーナーが最終案を選ぶわけですが、その決定も一つのコミットメントとなるでしょう。このようにして、ロゴデザインのプロセスは、ブランドに思いを込める、一つのイニシエーションとして機能します。

(4)商標のチェック

ロゴの最終案が数案に絞られた段階で、商標のチェックが行われます。基本的に商標のチェックは、クライアント側の法務部門が担当します。

(5)納品・ガイドラインの作成(約30時間)

最終的に選ばれたロゴを精錬し、納品データを作成します。

ロゴに加えて、名刺やステーショナリーなどを作成することもできます。また、ブランドのエッセンス、ロゴに込めた思い、さらにロゴの使用ルールをまとめたガイドラインを作成することもできるでしょう。特に、広告の出稿や、PR活動など、第三者がロゴを使用するケースが見込まれる場合、ガイドラインを作成することで統一感のあるブランドイメージを伝えることができます。

さらに、オプションとして、パッケージングや、ウェブサイトなど、すべてのコミュニケーションを統一感のあるトーン&マナーで揃えるために、ビジュアルアイデンティティーやデザインシステムを開発するケースもあります。

 
 

ロゴの価値

上記のプロセスからも明らかなように、ロゴのデザインは、そのシンプルな形状とは裏腹にかなりの時間と労力が求められるプロジェクトです。しかし、時間をかけて丁寧にデザインされたロゴには、それだけの価値があります。意味のこもった美しいロゴは、ブランドのイメージに貢献するでしょう。実際、ロゴはブランドのシンボルとして、いろいろなところでブランドの顔となります。ウェブサイトやCMなどの制作に莫大な費用がかかることを考えれば、ロゴの制作に力を入れるのは道理にかなったことではないでしょうか。

さらに、そのデザインプロセスには、ブランドのエッセンスを精錬し、チームの想いを一つにする上で、美しいロゴの見た目以上の価値があります。それは、ロゴという「トーキング・ストーン」を用いた、ブランドの「イニシエーション」プロセスとして機能します。実際、ブランドの成功は、チームのコミットメントのレベルにかかっています。自分たちの思いを形にしたシンボルをチームが共有することは、誇りと自信につながります。ビジョナルのサービスの多くが大成功しているのは、(ロゴデザインのプロセスに限らず)サービスを立ち上げるための一つ一つのプロセスを、実直に果たしてきた結果です。

もちろん、生まれたばかりのロゴは単なるラベルにすぎません。それは、ブランドが「名を成して」初めて意味をもつのです。つまり、ロゴを生かすも殺すも、すべてはブランドの活動にかかっています。しかし、ロゴの価値が、使い続けることで高まってゆくのであれば、最初の思い入れは強ければ強いほど良いでしょう。安易に変えたくなるようなロゴでは、そのブランドの価値の受け皿としてはかなり心許ないものになってしまいます。

ロゴの見積もり

さて、上記のプロセスでロゴとガイドラインを作る場合、平均して約150時間ほど作業時間がかかります。これはたぶん、一般的なロゴデザインのプロセスに比べると、しっかり時間をかけた設定だと思います。ここに、1時間当たりの製作費を掛けたものが、基本的な見積もりとなります。単刀直入にお伝えすると、現在の僕のデザイン・フィーは、1時間あたり1万円。つまり、デザインフィーは、150万円ほどになります。

なお、規模の大きなプロジェクトというのは、上記をベースにあと1〜2ラウンドプレゼンの回数が増えたり、パッケージやウェブの制作が加わることで、作業量に比例して見積もりも高くなって行きます。さらに、キービジュアルの制作などでイラストレーターや、写真家、プログラマーが参加することで、見積もりが増えるケースもあるでしょう。M&Aや、合弁事業などによるリブランディングなど、特殊なコンディションが加わると、それだけプロジェクトが複雑化する傾向があります。

逆に、スタートアップや、個人事業主とのプロジェクトの場合は、ブランド・エッセンスがシンプルだったり、ガイドラインが不要だったり、オーナーとの一対一の仕事で意思決定が早かったりするため、上記の見積もりを30〜50%絞ることも可能です

ということで、かなり率直に、ロゴデザインの見積もりの目安をご紹介しました。ご関心のある方、またはご質問のある方、ぜひご一報いただければ幸いです。

 
Daisuke EndoComment